AI活用率98.7%の組織はどうつくられたか──「ツールを入れても使われない」を超えた1年創業から20年、営業支援を事業の柱としてきたSALES ROBOTICS株式会社は、2025年に開催されたHR領域のアワードで中小企業部門グランプリを受賞しました。2025年6月時点でのAI活用率は98.7%、毎日利用率は72%強。この水準まで来たのは、ここ1年ほどのことです。推進を統括する執行役員 AI Innovation室 室長 高木氏に、シンシアリー株式会社 代表取締役 國本知里が話を聞きました。AI推進の出発点──課題から始めた立ち上げと、「北風アプローチ」の失敗簡単な業務から、組織を3段階で変える学び続ける文化と、変化の可視化AIが当たり前の組織、その先へAI推進の出発点──課題から始めた── 生成AIの社内活用率は、業界平均では10%から30%程度と言われています。SALES ROBOTICSは、どのような課題感から推進を始められたのでしょうか。高木:課題というよりも、まず生成AIが出てきたときのインパクトの大きさが先にあったと思っています。当社はコールセンターやインサイドセールスといった営業支援のBPOを事業の柱にしていますので、私自身が触ってみて「これはめちゃくちゃ相性がいい」と直感的に感じました。そのうえで経営と議論しながら自社の状況を整理したときに、ビジネス的な視点では大きく2つの課題が見えてきたんです。まず1つは、時間の使い方です。これは当社に限った話ではないと思いますが、特に営業──顧客接点にいる人間が、お客様にしっかり時間を使えているかというと、そうではない。事務作業や調整ごとなど、お客様への価値提供以外のところに多くの時間が使われていました。もう1つは、知識の属人化です。その人しか情報を持っていないので、サービスの幅がその人の能力や知識を超えて広がっていきません。「この人が知らなければ、次はあの人に聞きに行く」を繰り返している状態が、結果として時間の非効率にもつながっていました。個人としては問題なく回っていても、会社全体で見れば明らかにネガティブな話です。生成AIの技術を見たとき、こうした時間を圧縮することや、誰かに依存していた知識をみんなが使える状態にしていくことに活かせるのではないか──そういう仮説は最初の段階から考えていました。── 一直線にここに到達したわけではないと伺っています。高木:一直線ではなかったです。僕が最初に触り始めたのはGPTが3.5から4に移るころで、AIの技術にそんなに詳しいわけでもなかったので、「これは何に使えるんだろう」と探りながらの状態でした。最初はGPTを配布したり、こちらで研修をやったりして使い方を探していこうとしたんですが、なかなか使われないというのが実態でした。そこで「ツールを入れても使われない」と痛感したんですね。そこから、会社としての方針や課題を整理して、「最終的にどこを目指すのか」をしっかり定めた上で進めていこう、というやり方に切り替えました。弊社の場合は「目の前の顧客に向き合う時間を増やす」を目的に置いています。これがなかったら、今もまだ「AIをどう使うか」「活用率をどう上げるか」という議論で止まっていたと思うんです。目的を1段上げたことで、「何のために使うのか」という議論が社内で動いていったのが大きかったですね。國本:生成AIの活用というと「まずはAIを使ってみよう」から入る企業が多いなかで、「課題が何か」を最初に定義して、そこから「どこにAIが使えそうか」を考えられていた。これがSALES ROBOTICSの推進の出発点として大きかったと感じています。立ち上げと、「北風アプローチ」の失敗── 2年前にAI Innovation室を立ち上げられました。当時はどんな状況だったのでしょうか。高木:手探りでしたね。新しい仕事なので、組織の作り方も含めて「そもそも何をやる人なのか」が定まっていない状況でした。室を立ち上げて、僕も推進者という役割を担うことになりましたが、何をやっていくのか、どう組成して社内に展開していくのかは、本当に考えながら進めてきました。── 社員への伝え方ではどんな失敗があったのでしょうか。高木:意識醸成のところでは、最初はどちらかというと北風アプローチを結構やってしまっていました。「仕事がなくなりますよ」「自分自身がどう生きていくのかを考えないといけない」といった話の仕方です。ところがアンケートを取ってみると、「私の仕事はなくなるんですか」「すごく不安になりました」という声が多く返ってきた。これでは恐怖のアプローチにしかならず、「AIを使っていこう」よりも「今あるものを何とか守ろう」という意識のほうが強くなってしまうんですよね。だからそこを切り替えて、「これをやることで自分の働き方がどう良くなるか」をポジティブに伝えるようにしていきました。あと、誰が話すかも結構大事だと思っています。全社会で私が話すのはもちろんなんですけど、社長もしっかりとAI活用の方針を語り続けている。経営自身が伝え続けることが、すごく大事なポイントだと思っています。簡単な業務から、組織を3段階で変える── 立ち上げから、実際の浸透にはどのように動かれたのでしょうか。高木:いきなり大きな業務システムにAIを組み込んで業務を変えていく、という話はあるんですが、それを「いきなりやってください」と言ってもハレーションが起きます。ですので、開発に時間がかかる前のプロセスとして、社内で使える独自のAIをSlack上で動かして、徐々に慣れていく流れを作りました。並行して、LLMでめちゃくちゃ簡単なことからみんなにやってもらうこともやっていました。日報を書きましょう、議事録の内容を整理しましょう、ただ1ヶ月続けてみてください──そういう簡単なことから徐々にやっていったんです。慣れていくなかで「AIは怖いものじゃなくて使えるものなんだ」という認識が社内で出来上がっていきました。── 現場メンバーをどう巻き込んでいかれたんですか。高木:現場のメンバーを完全にチームに入れ込んで、現場のメンバーが最初から主体的に推進を進めていく構造をまず作りました。現場のことを分かっている人間でないとAIを適切に使うことはできないと考えていたからです。ビジネスを腹で持って理解しているから、それをどう変えていくかのアイデアが生まれやすいんですよね。シンシアリーさんにご支援いただいたところでも、AIの使い方というよりは、自分の業務がいまどうなっていて、その中でAIを使うとそれがどう変わるのか、KPIはどう変わるのかといったことを議論していきました。それがあるから自分の業務に戻ったときに、「どう使って、どう生産活動につなげていくか」という思考がメンバーのなかにできた。これは最初にやりたかったことでもあり、今でも推進と人材育成の中心になっています。國本:当時ご参加いただいた現場リーダーの方も、ご本人は当時AIに詳しいわけではなかったと思うんです。そこから研修や育成の取り組みを通して、今では社内で完全にAIリーダーになられていて、アプリケーション開発やコントロールはほぼお任せできる状態になっていますよね。高木:いきなり100人いて100人がそうなれるわけではないんですよね。コアになるメンバーが派生的にいろんな人と話し、情報共有し、ディスカッションしていくことで広がっていく。生成AIの社内推進を「人」の面から考えると、こういうやり方のほうが現実的だと思っています。── 組織体制も段階的に変えてこられたと伺っています。高木:当社では、組織を3〜4段階で変えてきています。① 第1段階:AI Innovation室+現場の推進メンバー。私がいてAI Innovation室があり、現場のメンバーが推進メンバーとして入っている構造です。② 第2段階:事業責任者を組み入れ、ミッションを付与。推進メンバーが事業部に戻ったとき、事業部自体がAI活用を動かしていける状態をつくらないといけません。次の段階では事業責任者をチームに入れ、推進メンバーと事業責任者の双方にミッションを持たせました。「自分たちの組織をどうやってAIで変えていきますか」というマインドセットを、この段階でつくっていきました。③ 第3段階:現場リーダー(AI推進責任者)の任命。今はさらに、現場で「あなたがAI推進の責任者ですよ」という役割を担う社員が何人かいる状態になっています。その社員が中心になって、上の事業責任者と話しながら、下のメンバーと一緒にユースケースを作っていきます。彼らが中心だからこそ現場感のあるユースケースが大量に生まれていて、それがビジネスに直接戻ってくる構造になっています。学び続ける文化と、変化の可視化── 育成の面で大事にされてきたことはありますか。高木:もう1つ大事にしてきたのが、生成AIパスポートの取得です。最新では取得率が70.4%程度で、社員の7割以上が取得している状態になっています。これを入れた理由は、学び続ける文化、学び続ける状態をすごく大事にしたかったからです。世の中の変化が早いなかで、「学んで変化する」ことに体制を持っておかないと、何かを始めたときに変化に動きづらい状態が生まれます。学ぶ、受講する、受験して合格する──このサイクルを基盤に置くことで、常に学ぶことを大事にする文化が定着してきました。國本:変化の数値をどう取っていくのかという部分は、なかなかいろんな企業ができていないところです。SALES ROBOTICSはアンケート形式で社内の活用率を取り、AI活用レベル診断でそれぞれのレベル感の推移も見ながら、改善すべきところを主観ではなく会社全体として捉えるようにされています。高木:可視化は生成AI活用そのものでも大事だと思っていて、数字としてちゃんと表す、変化を見える形にしてあげる。「最初はこうだったけれど今はここにいて、さらにここに伸びていますよ」と分かる状態を見せられないと、「今どこにいるのか分かりません」という状態になってしまうんですよね。── 数字以外の質的な変化はどう感じられていますか。高木:意識が変わってきたなと感じています。たとえば最近、社内報を出しているのですが、社員が自分たちの受賞や取り組みを記事にしたり、「うちが受賞できた理由」を自分たちで分析して書いてくれたりするようになりました。社員の4割ぐらいが応募してくるみたいな状況です。これは2年前には見られなかった光景です。自分たちでテーマを決めて、「課題はこうで、こう解決した」ということを書いてくる。これはAIを活用すること自体よりも、「変化に向き合う」「自分たちで適用していこう」という姿勢が生まれ始めていることの表れだと思っています。AIが当たり前の組織、その先へ── 今後、AIを使ってどう会社を変えていきたいですか。高木:最初から「組織変革」「文化変革」という言葉を使ってきましたが、まさに人と組織が変化していくことをやり続けたいと思っています。アワードのときにも話したのですが、当社は「AIが当たり前の組織文化が新たな顧客価値を創造する」というテーマを掲げています。その先に目指したいのは、新たな顧客価値を創造できる人を生み出すことです。プロンプトコンテストのような取り組みもそうですが、自分が今までやってきた範囲の外で、お客様価値として考えられるものを設計し、それを市場に届ける人材を作っていきたい。これは結局、BPOという受け身の仕事から、主体的に自分たちから価値を提案・創造する組織への変化でもあります。少し抽象度は高いですが、これを目指して進めていきたいと考えています。── 我々のような外部のパートナーが、そこに与えた影響はありましたか。高木:正直に言うと、社内だけでやろうと思っていたら、多分できなかったと思っています。当社はAIの会社ではないですし、ITの会社でもありません。そういう状況のなかで、國本さんをはじめ皆さんが外で経験されたことや知見を社内に展開してくれたことは、私が社内に伝えていくうえでもすごく刺激になりました。AIの領域は変化が早いですよね。みんな仕事が忙しいなかで、最新の動きをキャッチアップし続けるのは難しい。そこが外から入ってくるというのは、すごくいい刺激になっているんじゃないかなと思います。── 最後に、これからAI推進に取り組む方々へのメッセージをお願いします。高木:今日の話のまとめでもありますが、「導入が目的化していませんか」ということは、しっかり考えていただいたほうがいいと思っています。活用率を上げること自体も、それ単体では目的にはなりません。技術的な成熟は進んできたので、もっと早くできる部分もあると思います。とはいえ、組織と人の話なので、やっぱり時間はかかるんです。國本:今日のお話のなかで、「今やったことが明日効果が出る」ということはそこまで多くなくて、本当に小さな取り組み1つ1つの積み重ねが、会社の変革になっていく──私自身もあらためてその学びを得ました。本日はありがとうございました。取材日:2026年3月26日 / 記載の所属・役職は取材時点のものです。